坂本工業では、1日6時間、週5日の勤務をしているアルバイトがいるが、他社でもアルバイトを始めたいという相談を受けた。そこで社会保険の取扱いがどのようになるのか、社労士に相談することにした。
1日6時間、週5日の勤務をしているアルバイトがいます。先日、他社でもアルバイトをしたいという相談がありました。当社では、アルバイトが他社で働くこと(副業・兼業)を禁止していないので、当社でこれまで通りに働いてもらえるのであれば、問題ないと伝えました。
今回のように事前に相談してもらえると、ありがたいですね。
そうですね。今後、具体的に1週間の勤務時間等を報告してもらう予定ですが、このような掛け持ちで勤務した場合、社会保険の加入はどのようになるのでしょうか。
まず雇用保険は、複数の事業所で勤務し、それぞれの事業所で加入要件を満たしていたとしても原則として1ヶ所のみで加入することになります(※65歳以上のマルチジョブホルダーを除く)。ちなみにその加入する1ヶ所とは主たる賃金を受ける事業所です。
当社の給与の方が高い場合、雇用保険は当社のみで加入し続ければよいということですね。
その通りです。少し話はずれますが、仮に他社でも御社と同じくらいの時間数を勤務するとなると、過重労働が心配になりますね。
そうですね。過重労働のことは本人に伝えておきたいと思います。それでは、社会保険(健康保険・厚生年金保険)はどのように考えるのでしょうか。
社会保険は雇用保険と異なり、複数の事業所で加入要件を満たした場合、そのすべての事業所で加入することになります。
そうなのですか!?となると、健康保険証(健康保険被保険者証)は2枚持つことになるのですか?
いいえ。複数の事業所で加入した場合には、主となる事業所を従業員の方が選択し、届出することになります。この手続きにより、主となる事業所に係る健康保険証のみが交付されます。具体的な手続きとしては、「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出する必要があります。
そのような手続きを行う必要があるのですね。
社会保険料については、それぞれの事業所で支払われる報酬月額を合算した月額により標準報酬月額が決定されることになっており、それぞれの事業所で支払われる報酬月額に基づいて按分されます。
単純に当社が支払う給与だけで標準報酬月額が決まるわけではないのですね。そうなると給与から控除する社会保険料額はどのように判断すればよいのでしょうか。
社会保険料は、管轄する事務センターからそれぞれの事業所へ通知が届きます。この通知を元に給与から控除します。
なるほど、かなり複雑ですね。
2022年10月より被保険者数101人以上の従業員規模について社会保険の適用拡大が行われました。そして、2024年10月には51人以上の従業員規模へとさらに拡大されます。ざっくりとお伝えすると、週30時間以上勤務する人が社会保険に加入していたものが、週20時間以上勤務する人に変わる(※)わけですので、掛け持ちで勤務をしているパートタイマー・アルバイトのうち、複数の事業所で社会保険の加入要件を満たすケースが増えてくるでしょう。
そうなると、他社でも社会保険の加入要件を満たしているかの確認をしておく必要がありますね。
>>次回に続く
※詳細な基準は以下のページでご確認ください。
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150518.html
掛け持ちで勤務する際の労災給付について確認をすると、労災保険の給付のうち、賃金額が給付額に反映されるものは、勤務するすべての会社の賃金額を合算した額を基礎として、給付額等が決定されます。例えばA社で20万円、B社で5万円の賃金が支払われている場合、どちらの会社で被災したとしても合算した25万円が基礎となります。
また、脳・心臓疾患や精神障害に関する労災認定については、会社ごとに労働時間やストレス等の負荷を個別に評価して、労災認定の判断をしますが、それぞれの評価で労災認定されない場合は、すべての会社の労働時間やストレス等の負荷を総合的に評価して労災認定の判断が行われます。
■参考リンク
厚生労働省「副業・兼業」
日本年金機構「適用事業所と被保険者」
厚生労働省「雇用保険制度 Q&A~事業主の皆様へ~」
厚生労働省「労働者災害補償保険法の改正について~複数の会社等で働かれている方への保険給付が変わります~」
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。